- 平成の残灯 - 当時 彼女は11歳だった 身内は皆無事だったが 生活の基盤はもっていかれた 今も時々水が怖くなる 重油 腐った魚 潮 強烈な匂いと未曾有の体験の傷を一生抱えてく パラダイムチェンジで選択の余地なく 彼女は大人になるしかなかった 数年に及んだ避難所や仮設での生活では女を捨てた 日常が破綻した代わりに遣りたい事がハッキリ見えた 苦労ばかりでまだ癒えきってない両親に絶対負担は掛けたくない  フランス留学を目指す為だけじゃない デリを始めたのは去年の春  初めて相手したお客さんは全てを失った人だった  どんなに慰め合っても足りない 一緒に一頻り泣いた もうすぐ19になる 彼女の道はパリのシャンゼリゼ通りまで繋がっている 寄せては返す波 咲いては散る桜 不完全なプライバシー 騒音 寒さ 薄くて狭い間取りのストレスは尽きない いつからか彼はパチンコと酒の奴隷になってた 国の救済か東電の賠償かボランティアの義援なのか   受け取っては溶かしていた 完全に魂が抜けていた 家族 マイホーム 仕事 未来すらも飲み込んだ黒い津波 散々叫んだ 散々探した 散々泣いた 何度も自問した「なんで自分なんだ」 乗り越えられそうもない 酷く疲れた… 癒しを買うのは初めてだ  あの日以前は父親として男として真面目に生きて来たつもりだ 相手してくれた彼女も痛みを背負った人だった どんなに傷を舐め合っても足りない 一緒に一頻り泣いた もうすぐ8年目になる 何処に繋がっているかも分からない彼の道は険しい 寄せては返す波 咲いては散る桜 島根県西部 大阪府北部 北海道胆振東部 地震に留まらず  猛暑 豪雨 台風 豪雪 低温  この1年も災害が日本各地に猛威を振るった 家族 顔馴染み 社友 友達  その存在はいつも皮肉な形で尊いと教えられる 相変わらず俺は駄目な人間だと戒められる 平成が俺にとっても「戦争のない時代」として終わろうとしてる 一元論を振り回し兵士として人を殺める事のなかった時代 今も尚 血で血を洗う紛争や対立 まっただ中の世界にも ひとりひとりが命を敬い他者を尊重できる価値観が 1日も早く広がり浸透していく事を災害大国から願う あぁ願う